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zoom RSS アパホテル天王寺駅前:続報

<<   作成日時 : 2007/02/15 15:07   >>

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前記事に対する一郎さんからのコメントのおかげで、別の記事を読みました。(情報ありがとうございます>一郎さん)
asahi.comより『アパホテル、大阪市内でも耐震強度不足』

 市によると、強度不足が見つかったのは同ホテル2階にある鉄骨コンクリート製の大型の梁(注1)(はり)2本。市が再計算したところ、震度5強程度の中規模地震で損傷しないことを定めた(注2)建築基準法に照らして必要な強度の66%しかないことが判明した。特に接合部が弱く(注3)、市側は「建物全体を支える重要な梁だが、中規模地震で大きな損傷を受ける恐れもある」と指摘している。

 市の事情聴取に対し、水落氏は計算ミスを認めたが(注4.1)、強度不足は否定し、資料や参考文献を示して反論していた。市住宅局の担当者は「矛盾点に対して納得できる回答が少なかった。もっと注意深く設計すれば、強度不足は防げたはずだ」と説明。ただ、偽装の有無については「計算に誤りは多いが、悪意は見あたらず、偽装でないと考えている」としている。水落氏が手がけた同市内のアパグループのマンションは調査の結果、「問題なし」と判断した。

 同ホテルは05年5月、民間検査会社の日本ERIが建築確認し、06年8月に開業。同グループは耐震偽装問題を受けて3月から営業を停止する予定だったが、この日、急きょ休業を決めた。

 水落建築士は14日、報道各社の取材に対し、「確認申請当時の構造計算ソフトでは問題がなかったが、更新したソフトで改めて計算すると問題が生じた(注4.2)。ただ、施工時に設計より強いコンクリートなどを使っており、強度は十分と考えている(注5)」と話した。

まず、(注)を付けた部分について、順を追って説明していきます。

(注1)
「鉄骨コンクリート」という構造形式はありません(笑)。(柱なら「鋼管コンクリート」というのはありますが)おそらく、「鉄筋コンクリート」または「鉄骨鉄筋コンクリート」の間違いであろうと思われます。

(注2)
「中規模地震で損傷しないことを定めた」という表現は、私が前記事で推測した通り「許容応力度設計法」を指しているのは間違いないと思われます。

(注3)
コンクリート系の建物で「接合部が弱い」場合、一般的にそれを補うには接合部を大きくする(=柱・梁の断面を大きくする)か、コンクリート強度を上げるしかありません。この点については、後の方で関係してきます。

(注4.1, 4.2)
市側の答弁では水落氏が計算ミスを認めたとなっていますが、一方で水落氏自身は「更新したソフトで改めて計算すると問題が生じた」と述べているようで、これはむしろ水落氏のミスと言うより、バージョンの古いプログラムに不備があったのではないかと言う見方もできます。そういうことは実際よくある話で、(あくまで憶測ですが)仮にそうだとすると、それを水落氏の責に帰すのはかわいそうだという気がします。

(注5)
この点についても、後でまとめて書きます。

一方、別の記事にはこんなことも書いてあります。

KNB NEWSより『大阪市のホテルではりの強度不足』

 強度不足の理由について大阪市は完成した建物の荷重を20%ほど軽く見積もり、実際の荷重に応じた設計がなされていないためと説明しています。

 これに対し、水落建築士は「行政の判断は残念だが、強度が70%しかないとかそういう建物ではない。」と反論しています。


この点に関して、以下のような疑問が投げかけられているそうです。

耐震偽装と報道責任:「大阪市、アパグループの「アパホテル天王寺駅前」は耐震強度不足と発表 2007.02.14」のコメント欄より
>建物の荷重を20%ほど軽く見積もり
20%って多いですね。
cmをm(100を1)で、NをkN(1000を1)で入力でもしないとそうならないのでは?
よく2箇所のみNGで済んだものですね。
水落氏に間違いがあったのなら謝って欲しい、「問題ない」だけでは信用できないな。

確かに、20%と聞くとかなり大きな数字に思えますが、記事の文章だけでは、20%もの荷重の差が何に由来するものなのか(部材自重ということは考えにくいので、外装や床などの仕上げ荷重か、あるいは積載荷重であろうと思いますが)がまず分かりませんし、「20%」という数字自体も何に対して20%なのか(全重量?それとも積載荷重単独で見た場合?あるいは特定の部材が負担する範囲で見た場合?)が不明のため、この記事からだけでは多いとも少ないとも言えないと思います。

むしろ、全体の荷重が20%も足りないのだとすると、それこそ2箇所のみNGで済むわけがなく、もっと全体の部材がNGになる可能性が高いでしょう。それに、保有水平耐力にも不足が出るのではないかと思います。
私としては部分的な荷重の考慮が不足していたと考える方が理解しやすい気がします。

次に、一郎さんは、「らくちんランプ」さんのコメント欄から次のような指摘を引用して下さいました。
>水落建築士は14日、報道各社の取材に対し、「確認申請当時の構造計算ソフトでは問題がなかったが、更新したソフトで改めて計算すると問題が生じた。ただ、施工時に設計より強いコンクリートなどを使っており、強度は十分と考えている」と話した。

この台詞はごまかしでしかありません。
 コンクリートを打設するとき、強度はたしかに設計強度+品質管理強度+温度補正(一般的なコンクリート強度(Fc=21+3+(温度補正3or6))という具合に施工時の強度は設計時より強いです。
 しかし、コンクリートの強度を上げるということは、圧縮強度を上げるだけで、引張りに対しての強度は殆ど関係ありません。引っ張りに対しては鉄筋が負担しているからです。
 RC造の強度を考えるとき、コンクリートの断面積及び鉄筋量及び配筋状況も考慮しなければ本当の強度は分かりません。

ここに指摘のある通り、「設計強度+品質管理強度+温度補正」という形で割り増しをやるのは特別なことではなく、普通のことです。というのは、品質管理強度とか温度補正とかいうのは、コンクリートが将来的に劣化したり打設時の気温等の影響で品質にばらつきが出たりすることを見越して、あらかじめ割り増しておこうという趣旨のものだからです。
ですから、設計時点でその強度に期待するのはやはり間違いで、その点で水落氏の言い分は「若干苦しい」と言わざるを得ません。

ただ、「ごまかし」とまで言えるかというと、私はそうとも限らない気がします。
大阪市側が指摘している2箇所の梁の強度不足がどのような力に対してのものであるかにもよるからです。

例えば、コンクリートは圧縮の他にも「せん断」と呼ばれる力に対して有効で、せん断に対する部材の耐力にはコンクリート強度が大きく関係しています。

ここで朝日の記事の(注3)の部分を見ると、「特に接合部が弱く」とあります。前に書いた通り、鉄筋コンクリート造建物の接合部の強度には、コンクリートのせん断強度が大きく関係します。ですから、コンクリート強度が設計の数値よりも高いということは、実際の強度は設計のものよりも高いと考えて良いことになります。

行政側が強度不足を指摘した梁が、曲げの力に対して不足なのか、それともせん断に対して不足なのかは不明ですが、「接合部の強度不足」というキーワードから類推すると、特に問題となっているのはせん断強度の不足である可能性が高く、だとすれば水落氏の説明も、あながち的はずれではないと思います。
(もっとも先に述べたように、それに期待するのはどうかとも思います)

ちなみに、一般に部材がせん断破壊することはもちろん望ましいことではありませんが、梁や接合部の局部的なせん断破壊であれば、即倒壊などに至る危険性は低いと考えても良いでしょう。ただし、大地震を受けた後には、補修の必要が出る可能性は高いと思われます。
そういった意味で、「安全側サイドに立って補強を実施する」というアパの態度は、不特定多数のお客さんが利用する建築物の所有者として至極当然のことであり、良い態度だと思います。



以下は余談になりますが……

水落氏の説明には確かに数値ベースの話があまり出てきておらず、一方の行政側は「荷重を20%低く見積もり」とか「66%の強度」などと数値を出してきているので、一見行政側の主張の方に、より説得力があるように思えます。

ただ、私の個人的印象からすると、上の荷重に関する説明のところで疑問を呈したように、数字の意味が曖昧で(これは行政のせいばかりではないと強く思いますが)、むしろ行政側は安易に数値を公表しすぎていると思います。それらの数値の意味について解釈できるのは専門家だけなのですが、どうも数値だけが本来の意味を離れて一人歩きしている気がしてなりません。

水落氏が数字を出さないのは、むしろ安易に数字を出すことは意味がないことを、構造設計者として十分分かっているがゆえではないかとも思えます。
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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
迅速かつ丁寧かつ明快な解説に深謝いたします。

ところで、大阪市がHPでホテルやマンションのQu/Qun値を発表しました。

1.日本ERI株式会社が行った共同住宅の建築確認の検証結果について http://www.city.osaka.jp/jutaku/wnew/kozo_mondai/060511.html

2.「ヴィアイン新大阪ウエスト」の構造計算書の調査結果について
http://www.city.osaka.jp/jutaku/wnew/kozo_mondai/051212_02.html

3.「ヴィアイン新大阪ウエスト」の違反是正計画について
http://www.city.osaka.jp/jutaku/wnew/wnew_128.html

4.田村水落設計により設計された建築物の構造計算に関する検証結果(2月15日)。
http://www.city.osaka.jp/jutaku/wnew/wnew_170.html

Blogに2/15付けで感想を2本書きました。
ご一読いただいて、ご教授いただければ幸甚です。
一郎
URL
2007/02/15 18:09
>一郎さん
コメントありがとうございます。
意見というほどではありませんが、そちらの記事にもコメントさせていただきました。「梁2箇所の耐力不足」については、この話題に関連する直前の記事「アパホテル天王寺駅前の強度不足報道について」を読んでいただければと思います。また保有水平耐力については、そちらのページにも御紹介がありましたが、下記のページが参考になるようです。

「保有水平耐力について」(同URLを右に)
http://www.structure.jp/column/topic317.htm
Radcliffe
URL
2007/02/15 22:09
上の本文に対して、1点補足を。

本文では「部分的な荷重の考慮が不足していたと考える方が理解しやすい」と書きましたが、さらに言えば、その「不足」に対する認識にしても、過去に私が書いたような例(右URL欄参照)もありますので、構造設計者の考え方さえハッキリしているならば、「不足」というべきでない可能性もあると思います。
Radcliffe
URL
2007/02/16 11:24

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