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友人のthalionやでびぃから、おそらく一般の皆さんも抱くであろうと思われる疑問がコメントで呈されたので、それに対して私の答えられる範囲で答えたいと思います。 「ちょっと待って……?(追記あり) 」 thalionのコメントより: 素人からみると、一番気になるのは、手続きがどうとかいう問題じゃなくて その疑問に対する答えのひとつが、先に書いた「アパホテル関連:新たな情報あり」に書いてあります。 前の記事でも書いた通り、荷重一つ取ってみても、それに対する考え方はいろんな場合があるため、「目安」を示すことはできても「これでやれ!」とは言えないってところがあるんです。 もうひとつの問題は、下のでびぃに対する答えと一緒に書きます。 「書き方によって印象が変わる……(追記あり) 」 でびぃのコメントより: 計算ソフトが対応できないようなケースとかあるのかなぁ 「計算プログラムの適用範囲に合致しているか否か」というのは、もちろんあります。 それを確認するために、計算書にはプログラムチェックリストを付けることになっていて、チェックがすべてOKであれば基本的には「問題なし」とされます。 では、そのチェックリストで適用範囲に合致していない場合、プログラムが使えないかというと、そういうわけでもないんです。 適用範囲に外れている部分について、別途に手計算などで補足の処理を行って、問題ないことを確認してあれば、それでOKとなるわけです。 適用範囲から外れる代表的な項目として、一番簡単なのは「計算結果として出てきた、柱や梁などに作用すると考えられる力の数値(以下「設計用応力度」と呼びます)が、それぞれの柱や梁が実際に許容することのできる力の数値(これを「許容応力度」と呼びます)よりも大きいという結果が出た」場合というのがあります。 この場合も、設計用応力度をプログラムとは別に手計算などで算出し、許容応力度以下であることを確認すれば、それで良いわけです。 「でもコンピュータのプログラムで出た答えなんでしょ? 手計算と違うことってあるの?」 当然、そういう疑問が出てくると思います。 あるんです。 それはどちらかが間違えているわけではなく、考え方が違うからなんです。 もう少し平たく言えば、「答えを導き出すための式の立て方が違うから」とも言えるでしょう。 建築物の構造解析を行う上で、私たち構造設計者は建築物の様々な要素を、ある程度簡略化(=モデル化)して考えます。 例えば、床スラブは変形しない(=剛床仮定)とか、梁や柱は立体でなく線のように細い部材(=線材置換)として、交点の応力を計算するとか、コンクリートの柱と梁が交わる部分(接合部)は変形しない(=剛域)と考えるとか。 ちょっと想像を絶するかもしれませんが、60mを超える超高層ビルの最下層、建物の基礎部分に設ける梁のせいの高さは、3〜4mもあったりします。 それを1本の線として考えることは、構造設計者なら誰でも、割と当たり前のこととして行っていることなんです。 今世の中にある、いわゆる「一貫構造計算プログラム」と呼ばれるプログラムは、すべてそうだと言ってもいいでしょう。 まあ他にもこういった仮定は色々あるわけなんですが、例えば柱と梁と壁が入り組んで複雑な形状になってる部分を、どんな風にモデル化して計算するかというのは、構造設計者によって考え方が異なる場合も出てきます。 一方、プログラムで考慮できるモデル化の要素というのは、当然ながらプログラム毎にある程度限られます。設計者が「こういうモデル化の方が正しいはずだ」と思うモデル化が、できない場合も出てくるわけです。 非常に分かりやすい例を挙げます。 プログラムで計算した場合、柱には「力Aと力Bがかかる」と計算することになっています。 ここで、柱はCという力にまで耐えられるとします。 コンピューターの計算では、A+B≦Cであれば「OK」、A+B>Cであれば「NG(ノーグッド)」と判定されるわけです。 しかし、構造設計者は「この柱にはAという力はかかるが、Bという力はかからないと考えられる」と判断しました。 そこで、手計算でA≦Cであることを確認し、構造計算書には「OK」と書きました。 この例題は非常に簡単な例なので「それくらいならプログラム書き換えろや」と言われるかも知れませんが(^_^;)、実際の問題はもっと遙かに複雑で、いろんな要素があるのだと思ってください。 水落氏が「手計算で柱の断面が問題ないことを確認した」と主張しているのは、そういう意味合いのことを言ってるのだろうと思われます。 もちろん、それが水落氏のハッタリを効かせた言い逃れであり、京都府や国交省は既に偽装の確証をつかんでいるから自信満々で発表したのだという可能性もあるのですが、その論拠が示されてない今の段階では、構造設計者としては 「根拠となる計算の詳細を見てない以上、京都府や国交省が間違っているのか、それとも水落氏が嘘を付いているのか、今の段階では判断のつけようがない」 としか言えないのです。 お二人の疑問に対する答えに、少しでもなっていれば良いのですが…… 説明不足の点などあれば、どうぞまたご遠慮なく言ってください。 (1/28 追記) >でび プログラムの限界と人間による補足の必要性については、ご理解の通り。 「悪意」については、これはあくまで私の個人的な意見ですが、今回は姉歯のときのような形での明確な「故意」あるいは「悪意」は、なかったのじゃないかと思っています。 少し別の話になりますが…… 建築構造というのは、正直言って、解析モデルに乗ってこない様々な「計算外の余裕」を含んでいることは事実です。そうした計算外の余裕は、設計で予定していた力以上の力を建物が受けた場合に、建物を倒壊などの大きな被害から守ることになります。 一方で、構造計算の手法を複雑にして、答えを厳密に求めようとすればするほど、それは実際にはその建物の「余裕度」を減らしていることになります。その結果、想定外の大きな力を受けた場合に、「計算外の余裕」に踏み込んでいく可能性が高くなっていきます。 そして、その「計算外の余裕」が尽きた時、大きな被害を受けてしまう可能性も同時に高まっていると言えるでしょう。 もちろん、コスト削減や省資源などの観点から、こうした努力は決して否定されるべきものではありませんが、一方でそうした競争の「行きすぎ」が、今回の事件を招いたという見方もできる気がします。 私が思うに、最大の問題は、そうした事実が構造設計者以外の人たちに、あまり理解されていないのではないかということです。 建築主は本来、自分自身の生命や財産はもちろん、その建物を売ったり貸したりする場合には、そこに住むことになる人たちの生命や財産のことを意識して、建物を建てる必要があるはずです。 一方、以前にも述べたことですが、法律はあくまで最低基準を示しているだけです。しかもその最低基準は、決して「どんな地震や災害がきても壊れない」ことを保証しているわけではありません。 ですから建築主は、自分の建物がどの程度の強さを持つべきかを、自分自身で考えていく必要があるのです。(もちろん、そのための判断材料を、構造設計者は建築主に理解できる言葉で語る義務を負っています) 少なくとも、構造躯体を少しでも安くあげようとする(それをプレッシャーとして構造設計者にかける)態度だけは、厳に慎めとまでは言いませんが、ほどほどにして欲しいものです。 ただし、その前提として、建築主と設計者とのコラボレーションにおける信頼関係が最も重要であることは、言うまでもありません。 話が少し横道に逸れましたが…… 今回の騒動の背景には、建築の構造設計を巡る上記に述べたような風潮が、間違いなく存在すると思っています。 言ってみればそれは、「建築主が構造の安全性について意識していない=注意を払っていない」という、いわば「未必の悪意」とでも呼べるようなものではないでしょうか。 >aeternumさん お住まいが水落氏設計の物件とのこと。以前のコメントでも、名前こそ挙がっていませんでしたが富山の一級建築士の設計物件であるとおっしゃっていましたね。ご心配、お察しします。 いろんな意味で、良い結果が出ることをお祈りします。 それはそれとしまして。 >国交省はバレンタインまでに119件の検証 その点については、私も「無理言ってらあ」という気がします。 特に物件の集中しているところでは単独の行政庁で70件以上の物件をチェックする必要があるとのこと。誰の手を使って、どこまでをどんな風にチェックするつもりか知りませんが、仮に行政庁の人間だけでそれだけのチェックをやろうとすれば大変な作業量ですし、知識や専門性といった面からも、無理が過ぎるのではないかと思います。 以下、aeternumさんの疑問点についてですが…… >1.水落氏とタムラ建築設計事務所はなぜ、資料の開示要求に応じないのか? これについては、何かを申し上げようにも根拠のない憶測だけになってしまうので、コメントは差し控えたいと思います。 >2.以下の記事を比較すると >巨大マンション建設中断 構造計算の検証できず >http://www.asahi.com/special/051118/TKY200611010316.html >アパ、千葉のマンションも強度不足か 京都発覚の契機 >http://www.asahi.com/national/update/0126/TKY200701260364.html 2番目のニュースについては、よく読んでいませんでした。こんなことを言っていたのですね。 千葉県の検証では、4棟は強度が十分と判断されたが、残る1棟をめぐり、コンクリートの重さや梁(はり)の鉄筋量の算定に標準と異なる手法が多用されているとする県側と「学術的にも認められた手法」とする水落建築士の見解が対立した。 委員会が出したという結論の、「(県の考え方が)より妥当」という表現が、この問題の複雑さを表しています。 つまり、「水落氏の言ってることも一応の筋は通っているが、そこまで安全性を落としたやり方は、設計者として一般的なやり方ではないんじゃないの」ということだと思います。 おそらくこの後、水落氏は何らかの形で責任を問われるかと思いますが、水落氏は「今さら一般的な手法でないだの強度不足だの騒ぐくらいだったら、そもそも何で最初に確認済証を降ろしたんだよ」と開き直るかもしれませんね。 それにしても、aeternumさんのおっしゃる「他物件の判定結果が影響しているのでは」という見方には脱帽します。一読しただけでは、私にはそこまで読みとれませんでしたが、うがった見方をすると(失礼)、 「京都で水落氏の設計物件にクロって判定してるから、うちもクロにしとこう」 というような判断が委員会や千葉県側で働いた可能性を、否定できないことに気づきました。 そんなことがないことを祈りたいです。 そもそも論をいえば、問題とされている千葉の物件も、5棟のうち1棟が問題になっているとのことです。そのすべてが水落氏の設計であるとのことですが、これらが同時期に設計されたものだとすると、今回問題になった1棟のみが異なる手法(記事中で言う「標準と異なる手法」)で設計されたとは考えにくい気がします。 であれば、「別の(一般的な)手法で計算してみたらOKだったから残り4棟はOK」というのは、逆に筋が通らない気がします。 この4棟について法的に問題ないと認めるのであれば、残る1棟についても構造設計者の責任は問われないはずです。(ひょっとしたら、京都の物件の件とは切り離してそういうことになるのかもしれませんが、こうして扱われること自体、あたかも「千葉の物件についても水落氏は有罪」という印象を助長することになる気がします) >3.公的な再確認の結果すら二転三転する おっしゃることは、まったくごもっともだと思います。 前の判断を翻すと言うことは、つまり「前の段階では中身をきちんと見ていなかった」というに等しいことであり、こうしたことを役所が軽々しくすべきではないと思います。まして今回のような騒動の場合、そもそも確認検査の時点で一度決定的に「見逃して」いるのですから、なおさら慎重を期してもらいたいものです。 以前にも述べたことですが、この問題は技術的な問題=「足りてるかどうか」と、法的な問題=「(悪意のある)法律違反かどうか」とは、明確に分けて論じるべきだと思っています。 技術的な問題についてだけ言えば、これら新築の物件よりも早急に手を付けるべき旧基準による中古マンションが、大量に残っているのですから。 asahi.comより『マンション、進まぬ耐震診断・改修』 http://www.asahi.com/special/051118/OSK200701060082.html 以上、全然まとまっていませんが、いずれにせよ、今回の問題が早急かつ平穏に収束することを願っています。 |
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| タイトル (本文) | ブログ名/日時 |
|---|---|
そもそも論:プログラムは道具に過ぎない
何を今さら、と言われるかも知れませんが、細かい説明に終始し、根本的なところの説明が抜けていたので。 ...続きを見る |
ブロ愚 〜おろか日記 blog styl... 2007/01/30 21:25 |
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
|---|---|
要するにコンプータは人間の作業をなぞるだけで、どこまで複雑になぞれるかには限界があると。だから、その限界を超えてる部分については人間様のプロの修正が必要な場合もあると、まぁこういうことですな? AとBの力の問題でも論理的に競合ありえないかをコンプータにおっかけさせることは難しいと。 |
でびぃ 2007/01/27 23:27 |
昨年の6月頃、こちらでいろいろと疑問にお答え頂きましたaeternumです。 |
aeternum 2007/01/28 02:46 |
Radcliffe様の見解については全て、私も全く同様に感じています。 |
aeternum 2007/01/28 02:48 |
2.以下の記事を比較すると、2006年11月以来検討中の問題に対し週明けに |
aeternum 2007/01/28 02:49 |
3.本ブログで再三取り上げられていたように、公的な再確認の結果すら |
aeternum 2007/01/28 02:50 |
結局のところは、技術的な正当性よりむしろお国の、 |
aeternum 2007/01/28 02:51 |
>でび |
Radcliffe 2007/01/28 13:10 |
>>1.水落氏とタムラ建築設計事務所はなぜ、資料の開示要求に応じないのか? |
aeternum 2007/01/28 20:58 |
>2.以下の記事を比較すると |
aeternum 2007/01/28 20:59 |
>3.公的な再確認の結果すら二転三転する |
aeternum 2007/01/28 21:01 |
>いずれにせよ、今回の問題が早急かつ平穏に収束することを願っています。 |
aeternum 2007/01/28 21:03 |
>aeternumさん |
Radcliffe 2007/01/28 22:23 |
最後の「収束」に関する話については、まったく恐縮です。 |
Radcliffe 2007/01/28 22:26 |
Radcliffe様、ご回答ありがとうございます。 |
aeternum 2007/01/28 23:32 |
>aeternumさん |
Radcliffe 2007/01/29 00:22 |
うーん、良くわかんないんだけど、こういうことかな? |
thalion 2007/01/29 17:30 |
>さり |
Radcliffe 2007/01/29 19:50 |
ご回答ありがとうございます。 |
aeternum 2007/01/30 00:59 |
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070125-00000149-jij-pol |
aeternum 2007/01/30 01:42 |
>aeternumさん |
Radcliffe 2007/01/30 12:02 |
(続き)ここで建物の構造設計に関して言うと、高さや階数、総重量等の条件が同じで、使用する鉄の強度も同じであれば、同じ程度の安全性を満たすために必要な鉄の量もほぼ同じだと考えても、それほど大きな間違いではないと思います。 |
Radcliffe 2007/01/30 12:10 |
(続き)再検査に関する見解の相違というところについてはちょっと分かりかねるのですが、SRCとRCとの一般的な話としては、上記のようなことになると思います。 |
Radcliffe 2007/01/30 12:28 |
(続き) |
Radcliffe 2007/01/30 12:33 |
Radcliffe様、丁寧なご回答をありがとうございました。 |
aeternum 2007/01/30 23:25 |
報道の話では以下のブログが興味深いです。 |
aeternum 2007/01/30 23:58 |
水落建築士は、技術者・設計者である以上当然に論理的に反論するし、パフォーマーには全くなれていない。だからマスコミからの好意的な対応は得られない。彼自身は裁判も辞さない覚悟のようですが、世間は表層で全てを判断するので、彼の主張は世の中からは理解されないでしょう。先の私の主張とは矛盾しますが、だから構造設計という行為は、マスコミの報道対象となる表舞台に出してはならない世界だと感じます。私はこれで良いとは思いませんが、世の中を支配するのは国とマスコミである以上、絶対に彼らに逆らってはならない、ということを身をもって感じます。 |
aeternum 2007/01/31 00:01 |
>aeternumさん |
Radcliffe 2007/01/31 08:11 |
(続き) |
Radcliffe 2007/01/31 08:21 |
(続き) |
Radcliffe 2007/01/31 08:21 |
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