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その後、時々刻々と新たなニュースが明らかになりつつありますが、いくつか気になるニュースがありましたので、総括と意見を述べたいと思います。 ただし、一部に専門用語を使う点だけはご容赦(^_^;)。意味が分かりにくい場合、お尋ねくだされば都度できる限り説明します。 あと、目に付いた順に行きますので、報道日時順にならない点もご容赦を。 ●asahi.comより 「東日本評価センター、計算書審査の9割で手順守らず」 姉歯とは関係なく、大臣認定の構造計算プログラムを用いた構造計算書すべてをチェックした結果、国交省令で必要とされている書類が添付されていなかった、というニュース。 正直言うと、これが恐らく現在までの実体です。ここで取り上げられた東日本評価センターに限ったことではなく、公の行政庁も、その他の大手民間確認検査機関も、状況は変わらないでしょう。 ではその書類がどんなものかというと、計算の中身とは何ら関係のない「大臣認定書」という書類が一枚くっついているだけの話で、逆に言えばそれが付いていたからと言って、計算にごまかしがないとは言い切れない。事実、姉歯の場合は大臣認定プログラムを使用していたわけであって、付けようと思えば書類は付けられたはずです。 ですから、こういったチェックをさせていること自体がナンセンスで、こんなことを命じた国交省が何を考えているのか、よく分からない。 そんなことをさせるくらいなら、建物の規模から地震力を概算で出して、後ろに出てるはずの応力図やせん断力分担率表を見て、合計値を比べてみればよろしい。それから部材を2,3本、もうちょっと真面目にやるなら2〜30本ばかりランダムに抜き出して、断面検定に使っている応力と応力図の応力表示が大体あっているかが確認できれば、問題なし。その程度合っていれば、全体が偽装されている可能性は皆無と思ってよろしい。 あとは、部材の仮定断面表が図面と合っているかどうかくらい確認すれば完璧です。 ●asahi.comより 「「国交省認定ソフトに欠点」 日本ERI指摘 耐震偽装」 マンションなどの耐震強度偽装問題で、民間の検査機関日本ERI(東京都港区)が、建物の構造計算に使う国土交通相認定の専用のソフトに、市販のソフトでデータを改ざんできる欠点があると指摘している。姉歯建築設計事務所が強度偽装に使っていた疑いがあるという。開発した会社は「プログラム自体を操作・改変することは極めて困難だ。ソフト自体に脆弱(ぜいじゃく)性があったとは考えていない」としている。 極めて誤解を招きやすい表現だと思うので、設計者の知識から補足します。 ここでERIが主張している「市販のソフトで改ざんできるデータ」というのは、何のことはない、いわゆる「テキストファイル」のことです。市販のソフトというのも、単なるテキストエディタか、ワープロソフトのことです。 おそらくそのへんの事情が正確に伝わらなかったのでしょうが、この時点でのプログラムの開発会社の受け答えは、きわめてとんちんかんなものになってしまっています。姉歯は単なる構造設計者であってプログラマーではありませんし、年齢から考えて、市販のプログラムを改ざんできるような知識があるとも思えません。 どの一貫計算プログラムもだいたい似たようなものですが、計算結果のアウトプットにはテキスト形式で吐き出される部分と、簡単には中身を改ざんできないバイナリ形式のファイルとがあり、バイナリ形式のファイルは専用のプログラムを通してプリント出力するので、改ざんは困難です。一方、テキストの方は所詮テキストデータですから、当たり前ですがその気になれば、改ざんはできてしまいます。(ただ普通の構造設計者はそういうことを考えもしません。その方がよっぽど面倒くさいし、 さて、それでは上記の手法で改ざんされたデータを見た場合、そこに不正があることを見抜けるでしょうか。 残念ながら、これは「極めて困難である」と言わざるを得ません。図面と合わせて見た時に、ぱっと見て明らかに標準より少ない場合には、怪しいと思うこともできるでしょうが、例えば計算上で10本必要な鉄筋が9本、あるいは8本だったとしたら……しかも計算の数値にも異常がないように見えるとしたら、これを見抜くのは、構造設計歴20年を超すベテランでも至難だと思います。 別のニュースによれば、姉歯は申請先の確認の厳しさに応じて、ここに示したデータ改ざんの方法(上記に述べた通り見抜かれにくい)と、2通りの計算をやっておいて前半と後半を合体させる(前と後ろを見比べて簡単な検算をすればすぐばれる)という2通りの手法を使い分けていた節もあり(例えばイーホームズではチェックが甘いので後者、ERIでは前者というように)、単純に見落としの件数が多いからと言って、そこを非難するのは早計という気がします。 じゃあテキスト出力のアウトプットなど出さないようにすれば良い、と思われるでしょうが、このプリント出力というのがなかなか洗練されておらず、ちょっと複雑な形をした建物だと肝心の数字が重なって読みとれないことがしょっちゅうあります(もちろんテキストならそういうことはありません)。また、現状はテキスト形式でしか吐き出されていない情報もありますし、テキストデータを二次的に活用して別の部分の設計に用いることもあるため、これをなくされてしまうと設計者としては著しく不便です。 ただ、「プロテクトの義務づけを検討」(読売新聞より)などというニュースも出ており、このへんのところは構造設計者としては著しく不安です。 正直、そんなことをされたら仕事にならないのですから。 ●asahi.comより 「「こんな図面通ったら大変」偽装通報者、1年半前に指摘」 代表は構造計算の経験が約20年間あり、建設コストを抑える経済設計に詳しい。姉歯建築士の図面は直径32ミリの鉄筋を17本入れるべき1階の最下部のはりに、直径25ミリの鉄筋が5本しか入っていなかった。構造計算書は地震時にかかる力を本来の基準の4分の1まで落として計算していた。 気を付けていただきたいのは、「32mmの鉄筋が17本(一般に「17-D32」と表記)必要なところに、25mmの鉄筋が5本(同「5-D25」)しか入っていなかった」ということ。つまり、比率の問題だということです。 設計上、5-D25で十分な梁も存在するのですから、その本数しか入ってない梁があるからといって、ただちに設計を疑う必要はありません。 このあたりのことを理解もせずに、ただ「5本、5本」と騒ぎ立てるマスコミ、特に女性コメンテーターがいるのは、非常に不本意です。そのあたりの理屈を、きちんと分かった上で報道していただきたい。 ●asahi.comより 「偽装マンション、土地代分で買い取り 自治体に補助」 マンションなどの耐震強度偽装問題に関し、政府は6日午前、関係閣僚会合を首相官邸で開き、分譲マンション居住者への公的支援や賠償費用の保険制度導入の検討などを柱とする当面の対応策を決めた。加えて、地方自治体が国の補助を受けて問題の分譲マンションを土地代のみで買い取ったうえで解体し、建て替えをする。さらに自治体が居住者とともに建築主のヒューザー(本社・東京)などの責任を追及し、国と自治体が問題解決の前面に立つ姿勢も明確にした。公的支援については80億円規模の補正予算を視野に調整する。 当初「民間と民間の話であり、公的資金を出すことにはならない」(沓掛国家公安委員長)というコメントがあったことに対し、私は 「民間に確認業務を委託した時点で、それに対する監督責任は行政に生じている。純粋に民−民の問題と言い切ることはできないはずだ」 と主張しました。どうやら国も、そのことに気づいたようです。 この国の判断に対しては、住民サイドの代表からも「個人的には百点に近い回答」と歓迎の意見が出ています。 何せ相手は「あの」ヒューザーの社長のような人物ですから、国が正面に立つと宣言したことは、非常に大きい判断だと思います。 ここからは加害者サイドから徹底して私財を没収する方向になっていくと思われますが、ここで不安なことがひとつ。イーホームズとヒューザーらとの間で事実に関するやりとりが行われてから事実の公表までに、かなり時間がかかっている点です。 この間に、(特に破産した木村建設などは)事実公表に向けた「財産隠し」のようなことが行われている可能性も考えられます。当局には、厳格な確認と厳正な対処を切にお願いしたいと思います。 ●YOMIURI ONLINEより 「耐震強度、「中間検査」を厳格化へ…国が制度見直し」 マンションなどの耐震強度偽装問題で、民間の指定確認検査機関などは建築確認だけでなく、工事期間中に行われる「中間検査」でも鉄筋不足などを見逃していた。このため国土交通省は、中間検査をより厳格に実施するよう制度を見直す方針を固めた。 上に書いたこととダブりますが、仮に図面上の鉄筋が倍半分のオーダーで違っていれば、ベテラン構造設計者なら怪しむかもしれません。しかし、1〜2割程度の違いを現場で見抜くのは、極めて困難です。 これも以前の記事で書いたことですが、中間検査の厳格な実施は、あくまで「図面が正しい」ことを前提に、図面よりも鉄筋が少ないなどの工事ミス、あるいはそれを意図的に行う「手抜き工事」がないかどうかを監視するためには必要ですし、有益です。 しかし、今回のように計算書、あるいは図面そのものが不正なものであるといった場合、中間検査で見抜ける主旨のものではありません。 構造計算そのものの不正を見抜くためには、今の確認検査とは別の角度から、構造計算の中身そのもののチェック体勢を整える必要があります。そのためには、おそらく今の構造設計者の人数では足りないでしょう。なぜなら他人の構造計算内容をチェックできるのは、構造設計を熟知したベテランの構造設計者のみであり、その数は限られているからです。 当面、今いる構造設計者でそれを行うのであれば、例えば設計2:チェック1程度の割合で構造設計者が役割を分担し、お互いにチェックし合う体勢を取る必要があります。当然ながら、設計の時間は今までの1.5倍、チェックの時間を含めれば2倍程度必要になると考えなくてはなりません。 (時間は今まで通りで、というのはご勘弁。そんなことをしたらそれはそれで不正や手抜きが横行しかねませんし、そうでないとしたら死人が続出しますから) ●YOMIURI ONLINEより 「営業中止ホテル…鹿島、大林組も施工」 耐震強度偽装問題で営業中止に追い込まれているホテルのうち、2棟は大手ゼネコンの鹿島と大林組が施工業者となっていたことが6日、国土交通省などの調べで明らかになった。 鹿島の施工したというホテルは「プラザホテル舞鶴」、大林の方は「ヴィアイン新大阪ウエスト」。いずれも既に営業は中止されているそうです。 それよりも問題は、とうとう大手ゼネコンの名前まで今回の偽造問題に巻き込まれてしまったこと。見抜けたか見抜けなかったかという点に関しては、確認検査機関と同レベルの話になるので敢えて問題とはしませんが、このことによって建設業界全般が被る信頼度ダウンの方が、私にとっては心配でしょうがありません。 ただ、地方のゼネコン事情をよく知る人に言わせると、「さほど不思議でもない」のだそうです。元請けとして大手ゼネコンが入り、実際の施工は下請けとして中小のゼネコンが行うことは、実体としてよくあることのようです。 同じ業界の人間として、こんなこと言いたくはないのですが、その他の大手ゼネコンの名前が、この先出てくる可能性も十分にあり得る気がします。 一時の建設不況のため、ゼネコンの人数は減っています。そのくせ、建物が完成するまでの工期は、昔の2/3から、下手すると半分程度に縮められています。そんな中で、手抜きと言わないまでもチェックが行き届かないのは、いかんともしがたいところもあると思います。 以上、いくつか目に付いたニュースについて総括し、注釈と個人的意見をつらつらと書いてみました。 最後に、もう一言だけ。 建物の構造的な安全性は、多くの人の命に関わる問題です。 以前に述べたことの繰り返しになりますが、この部分に関する時間やコストまで切り詰めるのも大概にしておかないと、「百害あって一利なし」ということになります。 そのことを、少しでも多くの人にご理解いただきたいと思います。 |
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| タイトル (本文) | ブログ名/日時 |
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自分なりに再整理を試みてみる:構造計算書偽造事件
とにかくこの事件については、いろんな人がいろんな意見を言ってます。 非常にうなずける論理的な意見もあれば、極めて感情的なものもあり、ホントに色々です。ただ、感情的な意見だからと言ってその全てを否定できない面もあるので(特に過去の災害の被災者など)、自分としてもなかなか頭の中の整理がつきません。 しかし、それでも時々刻々と伝えられるニュースや、あちこちのブログを見ているうちに、少し見えてきた部分があるので、ここらで一度再整理を試みてみたいと思います。 ...続きを見る |
ブロ愚 〜おろか日記 blog styl... 2005/12/11 00:15 |
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
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解説ありがとうございました。確かに一時の利益に目を奪われて信頼を損なったら何の意味もありません。他山の石とさせていただきます。 |
Zephyranthes 2005/12/07 11:01 |
>Zephyranthesさん |
Radcliffe 2005/12/07 12:37 |
こういうと誤解を生じやすいと思うんですけど、買い手 |
YS11大好き 2005/12/07 19:32 |
アメリカ式合理的資本主義は日本の国民性には合わない |
YS11大好きつづき 2005/12/07 19:32 |
いやいや、デジカメとマンションをいっしょにされたら困ります。 |
牧山 2005/12/07 23:33 |
それに。 |
牧山 2005/12/07 23:33 |
今回の事件に対して、YS11大好きさんのおっしゃるような「買い手責任」を問う主張も、ネット上には結構出ていることは、私も目にしています。 |
Radcliffe 2005/12/08 08:35 |
(続き)また、建築の費用のうち構造躯体(コンクリートとか鉄筋とか鉄骨とか)が占める割合は、多くてもせいぜい20%前後です。いくら減らしたとしても、まがりなりに(地震がなければ)建っている建物を造るためには、それを半分にすることはできないでしょう。 |
Radcliffe 2005/12/08 08:36 |
まあ、個人的には何よりも「今回の事件によって受けた(いつ大地震が来て建物が倒れるかも知れないという)精神的不安」だけでも、「買い手責任」としては十分なんじゃないかという気もしないではないです(^_^;) |
Radcliffe 2005/12/08 08:38 |
失礼します。 |
No1ブログランキング! URL 2005/12/08 20:18 |
これまで国が行ってきた審査を民間に委託しなければ、こうした事件はおきなかったかというと、それは少々疑問だと思う。ただ、もしそういう事件が発生していれば、少なくとも国がその責任を持つと確信して言えるだろう。 |
thalion URL 2005/12/09 14:54 |
>民間に委託しなければ、こうした事件はおきなかった |
Radcliffe 2005/12/09 15:15 |
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