ブロ愚 〜おろか日記 blog style〜

アクセスカウンタ

help リーダーに追加 RSS 構造計算書偽造の問題について思うこと

<<   作成日時 : 2005/11/21 00:01   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 5 / コメント 5

今、巷で大問題になっているマンション等の構造計算書偽造のニュース。
職業柄、避けて通れない話なので、個人的に思うことを。

まず、姉歯建築士がやったことについて。
私がいくつか見た記事の情報から総合すると、

  • 地震の揺れによって建物が受ける力(地震力)の係数を、建築基準法で定めた最低基準よりも小さくして計算した。

  • それを隠蔽するために、別に基準を満たした地震力に設定したデータでも計算を行い、地震力を示した部分だけを差し替えた。


ということのように思われます。(あくまでも推定ですが)
一説によれば、地震力を最低基準の半分程度しか見ていないとあり、その結果必要な地震に対する安全性についても、「(最低)基準の3〜7割」(朝日新聞より)とあります。

もちろん、このこと自体は法的にも倫理的にも許されません。
建物を生き物の身体に喩えるなら、構造は骨格であり筋肉でもあります。そんな大事な部分の設計をやる人間に、ここまでモラルの低い人間がいるというのは、感情論から言っても、正直情けないです。
この件については、これ以上言うことはありません。

次に、検査機関(イーホームズ)の責任問題について。
姉歯建築士は、「検算すれば簡単に見抜ける偽造も見逃していたので、チェックが甘いと思った」(gooニュース経由、読売新聞より)と話しているそうです。
ここでいう「簡単な検算」が構造計算のどの部分を指しているのかが分からないので、はっきりとは言えませんが、同じ記事の中で姉歯建築士が「イーホームズ以外の会社はチェックが厳しく数字は変えていない」と言っているところから考えても、イーホームズのチェックが他の審査機関より甘かったという事実はあるのかもしれません。

ただ、個人的な心証を言えば、これは検査機関に責任を転嫁しようとする心理が働いているようにも思えます。
検算というのは、該当する部分だけをそれと思って見れば、知識のある人間にとっては「簡単」と言えますが、実際問題として膨大なページ数の計算書(おそらくは構造計算プログラムの膨大なアウトプットを含む)の中からその箇所を見つけだして検算を行うのは、言うだけなら簡単ですが、現実には無理でしょう。

なぜなら、時間がかかりすぎるからです。

役所や審査機関が構造計算をもう一度やるとしたら、設計に要したのと等しいとは言わないまでも、半分〜7割くらいの時間と労力がかかるはずです。そこにそれだけの労力をかけてしまったら、審査のためのコストと期間が、設計のコストや期間並みに跳ね上がってしまうはずです。
「それでもそれをやるべきだ」と主張するのも簡単ですが、そのコストは税金とか審査費用、あるいはそれだけの期間土地を寝かせておく間に生じる諸費用(土地を購入するために借金した利息など)といった形で申請者(=建築主)、ひいてはそれを購入して実際に住んだり泊まったりする人に跳ね返ってきます。おそらく一番問題になるのは審査費用等よりも審査期間が伸びることの方でしょう。(これがあるが故に、設計者も施工者も「早く設計しろ、早く建物を完成させろ」というプレッシャーに悩まされる状況が常に続いています。正直、どうしてこの勢いでみんな回り続けていられるのか、不思議なくらいです)

この問題についてはもう少し踏み込みたいのですが、その前にもうひとつ、行政の責任について。
問題となった偽造設計のマンションにお住まいの人たちからは、行政の責任云々という怒りの声も出ているようです。民間に委託しているとはいえ、基本的に建築の許認可というのは行政の役目であり、確認業務を委託した時点で、それに対する監督責任は行政に生じているのですから、「民間と民間の話であり」(沓掛国家公安委員長のコメント、朝日新聞の記事より)と言い切ってしまうのは、いかがなものかと思います。
それにもまして、もしも私が欠陥マンションの住民の立場だったらと思えば、その怒りは全くもって「もっともだ」とも思います。

ただ、その一方で、建築設計に携わる者としての立場からは、少し別のことを考えます。

そもそも、建築確認(ある設計された建物が、その予定地に建てる上で適正かどうかを確認し審査する手続き)は、国や都道府県などの「特定行政庁」と呼ばれる、いわゆる「お役所」に一元的に任された仕事でした。
ところが、現在では建築確認の業務が民間に委託されるようになりました。もちろん前にも述べたように、だからといって行政の責任が完全に免れるものではないと思いますが、一方で何故民間に建築確認業務が委託されたかということも合わせて考える必要があるでしょう。
その理由は大きく分けて二つ。
ひとつめは、すべて税金で賄わなくてはならない行政に代わって、民間で業務を請け負って金をもらうと言うことですが、こちらの方は実際問題として、行政の退職者の受け皿になっている感も否めないかもしれません。
重要なのはもうひとつの方で、確認検査業務のスピードアップということです。
ここで話が戻りますが、例えば審査期間を短縮させることによって土地を寝かせておく期間も短縮でき、ひいては借金の利息が減るだけでなく、建物を早く稼働させることができ、結果的にそれだけ早く長く儲けることができる、という現実が、ここに絡んできます。

審査期間だけではありません。設計者には(おそらくは姉歯建築士も直面したであろう)設計期間の短縮、そして施工者には工期の短縮。
いずこも同じだろうとは思いますが、コストはたいていそれに要する時間で測られています。だから、「要する時間を短縮すればするほど安く上がる」という、ちょっと冷静に考えればきわめておかしな構図が、できあがってしまっているのです。

かかるコストの大半は、日本では人件費です。そして、人間の持つ時間は、どうあがいても1日24時間、1ヶ月で約720時間以上はありません。働ける時間は、せいぜい1/3か、非常に健康で頑強で仕事の大好きな人でも半分がいいとこでしょう。
そして、1時間当たりの人件費も、概ね決まっている。
後は、その仕事にかける期間を短縮してしまえば、安くなるという寸法です。

時間を短縮した結果として、同じ品質の物ができあがるのであれば、それを「ノウハウ」と言えるかも知れません。
しかし、人間は完璧ではありませんから、時にはミスを犯します。それが怖いから、私たちは何度も検算したり、おかしな水準になってないかどうか類似の例と比較してみたり、他の人の目を通してもらったりします。
時間を短縮することは、そうした見直しの時間、確認とチェックの時間を、結果として省く方向に行きがちです。

すべてにおいて「効率」を優先させ、文字通り「時は金なり」の道を突き進んだ挙げ句の行き着いた先。私には、今回の事件がそういう側面を持っていることを否定できません。

繰り返しになりますが、だからといって計算書の偽造が許されると思っているわけではありません。
しかし、「衣食足りて礼節を知る」ではありませんが、時間に追いつめられることによって、モラルの低下は起きるような気がします。
もう少し、振り返って色々なことを考える時間を、みんな持つべきなんじゃないでしょうか。
人の生命や安全にかかわるようなことについては、特に。
誰も、自分が生きる時間を、お金で買うことはできないんですから。

かなり乱文で、正直まとめきれてないのですが、今の私の考えとして、この項を公開します。
ただ、言葉足らずな面や、誤解を招くような部分もあるかもしれません。私の理解が不足している面も、多々あると思います。ご指摘いただければ、その部分については加筆したり訂正したりしていきたいと思っています。

設定テーマ

関連テーマ 一覧

月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(5件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
構造計算書偽造・続編
今朝のTVにて、設計事務所による構造計算書偽造のニュースを報道しており、この番組にコメンテーターとして出演していた塩川正十郎氏(元財務大臣)が、こんなコメントをしておりました。「中間検査が実施されていればチェックできる」「住宅金融公庫利用なら中間検査があ.. ...続きを見る
不動産購入応援ブログ[不動産の市況と動向...
2005/11/21 07:31
追記:構造計算書偽造の問題について思うこと
「構造計算書偽造の問題について思うこと」について 新聞等の記事の一部に、「中間検査でも違法性に気づかず」とした内容で、イーホームズの検査が甘かったことを強調するような記事があります。 ただ中間検査の目的は、設計図通りに施工が行われているかどうか(設計の意図と反していないか、見落としがないか、いわゆる「手抜き工事」がないか……)を検査することであり、今回のような「手抜き設計」とでもいうような内容を見ることができるものではありません。 他の機関が中間検査を行ったとしても、この段階で設計のミ... ...続きを見る
ブロ愚 〜おろか日記 blog styl...
2005/11/21 08:21
姉歯さん
 何というか、反省の色無しな人です。というか、この事件を取り巻く誰にも反省の色が無いのが特徴的というか。責任の擦り付け合いの場に、実際にマンション買った人(本当の被害者)が全くいないのが象徴的です。  ヒューザーも自己破産?シノケンも? っていうか、自己破.... ...続きを見る
びじうのログ
2005/11/28 12:38
構造設計って何だろう?:(その1)建築設計者の仕事
「構造計算書偽造の問題について思うこと」と題して書いてから、色々と新たな事実も浮き上がってきました。 そういったことについて色々と書く前に、建築設計の仕事のこととか、そもそも「構造設計とは何か?」「構造計算と構造設計の違いは?」「構造計算プログラムって何?」などと言ったことについて理解してもらうために、私なりに説明をしてみたいと思います。 ...続きを見る
ブロ愚 〜おろか日記 blog styl...
2005/12/03 10:04
構造計算書偽造問題:新聞記事総括
 その後、時々刻々と新たなニュースが明らかになりつつありますが、いくつか気になるニュースがありましたので、総括と意見を述べたいと思います。  ただし、一部に専門用語を使う点だけはご容赦(^_^;)。意味が分かりにくい場合、お尋ねくだされば都度できる限り説明します。  あと、目に付いた順に行きますので、報道日時順にならない点もご容赦を。 ...続きを見る
ブロ愚 〜おろか日記 blog styl...
2005/12/06 23:48

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(5件)

内 容 ニックネーム/日時
効率重視の企業運営が招いたことかと思います。
コストカット>>>>>安全性の考え方をしてい
るきらいが何処の企業にもあります。
コストカットのために中国に機体整備を発注する
航空業界、コストカットのために解雇する企業など。
昔は、人件費や経費をカットすることのないように
適正な価格で売っていたので、それなりに経済が
よく回っていたと思います。
人件費を確保するということは、働く人間も企業に
感謝して貯蓄をしてその企業の製品を買うことも
あるでしょう。
経費をきちんと代金の一部として上乗せして売れば
外注を頻繁に行えるようになり経済が潤います。外
注先でも適正の価格で作業をするようにすると、
人が雇えると思うのです。
いっぱいクビにしたことによってそのしわ寄せが
残存してる職員や社員に来て仕事が増えてその分
手抜きや、間違いが起ると思うのです。そこで安
全性に目が行かなくなりあとで大ごとになってい
くのだと思います。
効率化が招く悲劇だったのでしょうね。
普通に儲けて普通に稼いで普通に雇って普通に買う。
そういう世の中になって行けばいいのにと思...
YS11大好き
2005/11/21 08:49
できることならば、犯人探しではなく、原因探しをして欲しい。

そして原因が分かったら、それを再発させないための施策を打ち、その施策が有効に働いているかどうかを継続的に監査してほしい。

責任をなすりあうよりも前に、するべきことはたくさんある。
thalion
2005/11/21 09:56
>YS11大好きさん
ご意見ありがとうございます。
まさにおっしゃる通りだと思います。
もちろん、それを言い訳にして今回の当事者である建築士が責任を免れることはあり得ませんが、下でthalionが言うように、責任の追及ではなく、原因の追究と再発防止こそが最大の命題であると思います。

>thalion
今のところ構造設計者内部の話ですが、そうした取り組みに向けた活動も既に始まっています。続報できるだけの情報が集まったら、また書きたいと思います。
Radcliffe
2005/11/21 13:33
念のため書いておきますが(多分分かってくれてると思うけど)、私のコメントは「Radに」向けられたものではないです、はい。関係者方面に向けていい加減に抛られているものです。

ところで、素人考えで言うんですが。

こういう「検算」って、何らかの形で自動化できないんでしょうか、とか考えちゃいます。 それともすでにそれは行われていて、今回のケースではそういうものを欺くだけの狡猾さがあったということなんでしょうか?

…コスト的に見合わないとかなのかな…。

thalion
2005/11/21 14:56
うん、分かってます。お気遣いいただきありがとう。(^_^)
ただ仕事柄、どのみちこの問題は避けて通れないし、自分なりの考えをまとめておく必要もあるので、自分のためにも情報は集めておきたいなと。

それに、構造設計という仕事がどういうものなのかについて、少しでも大勢の人に理解してもらいたい気持ちもあって(今回のような例は極めて非常識な事例で、普通の事務所や設計者がどれだけ真面目に取り組んでるかというようなことも含めてね)、これからも少しずつ書いていきたいと思ってます。

「検算の自動化」については、一言で言ってしまうと難しいでしょうね。
説明するとちょっと長くなるのですが、今日は時間も遅いので、また次の機会にまとめてみます。
Radcliffe
2005/11/22 00:45

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
ブログパーツ